親友への秘めたる恋:夕焼けカフェの小さな決意

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佐倉 陽(さくら ひなた):少し内気で、物事を深く考えるのが得意な大学生。カフェでアルバイトをしている。親友である美月への、秘めたる恋心に日々揺れている。

小野寺 美月(おのでら みつき):陽と同じ大学に通う、明るく活動的な女の子。いつも笑顔で、周りをパッと明るくするムードメーカー。陽にとっては、かけがえのない大切な存在。

私は、美月と向かい合って座っていた。
いつものカフェ。窓から差し込む午後の光が、美月の髪をキラキラと照らしている。
彼女は、楽しそうに今日の講義であった出来事を話していた。
「それでね、教授がさ、突然クイズを出し始めたんだよ!もう、みんなびっくりしてさー!」
美月の話は、いつも生き生きとしていて、聞いているだけで心が弾む。
私は、カップに入ったカフェラテを一口飲んだ。ふわふわの泡が、少しだけ口ひげのように残る。
美月はそれに気づいて、「あ、ひなた、ついてるよ」と笑いながら、自分の指でそっと私の口元を拭ってくれた。
その一瞬、指先から伝わる微かな温もりに、私の心臓はドキンと音を立てた。
「ありがとう」
私は少し俯き加減に呟いた。
美月の笑顔が、あまりにも眩しくて、直視できなかった。
この気持ちを、どう伝えたらいいんだろう。
友達として、ずっと隣にいたい。
でも、それだけじゃ、もう足りない。
喉の奥に、言葉にならない塊が詰まっているような感覚。

美月は、私のそんな感情には気づかないまま、また別の話題を話し始めた。
「ねえ、ひなた。今度の日曜日、一緒にあの映画見に行かない?前に話してたやつ!」
映画。美月と二人で出かけるのは、いつものことだ。
初めて二人で映画に行ったのは、大学に入学してすぐの頃だった。
あの時も、今みたいに、美月が誘ってくれた。
映画館の暗闇の中で、美月の隣に座っているだけで、胸がいっぱいになったのを覚えている。
ポップコーンを分け合いながら、時々手が触れる。その度に、私の心は甘く震えた。
帰り道、雨が降ってきて、美月が「走ろう!」って私の手を引いてくれた。
あの時の手の温かさも、今も鮮明に覚えている。
私の手は、美月の手よりも少し小さくて、彼女の指が私の指に絡まるたびに、まるで世界が止まったかのように感じた。
そんな小さな瞬間が、私の日常に散りばめられた、かけがえのない宝物だ。

私たちは、よく一緒に料理もする。
美月は、料理が得意で、いつも手際よく野菜を切っていく。
私は、横でぎこちなく手伝うだけだけど、美月はいつも「ひなたがいてくれると助かるよ」と言ってくれる。
先日作ったオムライスは、美月がケチャップで「ひなた」って書いてくれた。
「わあ、すごい!」
私が感動すると、美月は照れたように笑っていた。
「ひなたが喜んでくれると、私も嬉しいな」
その言葉が、私の心にじんわりと染み渡った。
美月といると、どんなことでも特別になる。
ただの日常が、色鮮やかな思い出に変わっていく。
この温かさを、ずっと守っていきたい。
でも、この関係を「友達」という枠に閉じ込めておくのは、もう限界だった。
好きだという気持ちが、私の心の中で、どんどん大きくなっていく。
それは、まるで、陽の光を浴びて育つ植物のように、止められない成長を続けていた。

「ひなた?」
美月の声に、私はハッと顔を上げた。
どうやら、また考え込んでしまっていたらしい。
「うん、ごめん。ぼーっとしてた」
「大丈夫?疲れてる?」
美月は心配そうに、私の顔を覗き込んだ。
その優しい眼差しに、私はまた胸の奥が締め付けられるような痛みを感じた。
こんなにも優しい美月に、もし私の気持ちを伝えて、戸惑わせてしまったら?
もし、この関係が壊れてしまったら?
想像するだけで、足元が崩れ落ちるような不安が襲ってくる。
家族に、この気持ちを打ち明けることだって、まだできていない。
世の中には、私たちのような関係を理解してくれない人もいる。
そんな現実が、私の心をがんじがらめにしていた。

美月は、そんな私の葛藤を知る由もなく、ただ優しい笑顔を向けている。
「ねえ、ひなた。私ね、ひなたといる時が一番落ち着くんだ」
美月が、ふいにそう言った。
私の心臓が、また大きく跳ねる。
「ひなたは、あんまり自分の気持ちを言わないけど、隣にいると、なんだか安心するんだよね。だから、これからも、ずっと一緒にいてほしいな」
ずっと一緒にいてほしい。
その言葉が、私の心に、温かい光を灯した。
それは、私がずっと願っていたこと。
でも、美月の「ずっと」は、私と同じ意味なのだろうか。
友達としての「ずっと」なのか、それとも……。
その問いの答えは、私自身が美月に伝えなければ、決して見つからない。

私は、美月のまっすぐな瞳を見つめ返した。
彼女の言葉の裏に隠された、本当の気持ち。
それを知るには、私が一歩踏み出すしかない。
怖くないと言えば嘘になる。
でも、このまま何もしないで、後悔したくない。
美月の隣で、ただ黙って頷いているだけでは、何も変わらない。
私は、テーブルの下で、そっと自分の拳を握りしめた。
指先が、少し震えている。
カフェの窓の外では、夕日がオレンジ色に空を染めていた。
まるで、私の決意を、そっと見守ってくれているみたいに。
「うん」
私は、ようやく声を出した。
「私も、美月と、ずっと一緒にいたい」
私の言葉に、美月はにっこりと笑った。
その笑顔は、どんな不安も溶かしてしまうような、温かくて、強い光を放っていた。
まだ、何も言えていない。
でも、この「ずっと」という言葉に、私は私の全てを込めた。
そして、その「ずっと」が、いつか美月の「ずっと」と、同じ意味になるように。
私は、ゆっくりと息を吸い込んだ。
明日、いや、今日から、少しずつ。
私の本当の気持ちを、美月に伝えていこう。
夕焼け空が、私の背中を優しく押してくれているようだった。

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